桐を使ったからくり人形
江戸時代のからくり人形に、桐材を使ったものがある。
「段返り人形」という身の丈約4寸あまりの人形で、人形の内部に水銀を仕込み、この水銀の移動で人形が後ろに宙返りしながら、階段を降りていくというものである。
桐材の軽さは水銀による重心の移動をじゃましない。
また桐材の狂いの少なさや割れにくさは、水銀を密閉し漏らさない。
桐材の特徴をうまく利用したその知恵と技術には感心してしまう。
江戸時代、寛政八年(1796)に出版された「機巧図彙(からくりずい)」という本がある。
この本は江戸時代に人気のあったからくり人形を集め、その造り方の解説を行ったものである。
有名な茶運び人形をはじめとして、九種類のからくり人形について述べられている。
先の段返り人形の解説もあり、桐を使ってかるく作るように指示されているのである。
今日で言えば、ロボットの設計図にあたるもので、技術が一子相伝の江戸時代にあってめずらしい本といえよう。
その記述内容の水準の高さは、何体かのからくり人形がその具体的な解説をもとに複製されていることからも実証されている。
江戸時代は世界史上でも例のない平和の時代が、260年以上も続いた時代である。
その中で培われた技術の蓄積には、今日でも驚くようなものがたくさんある。
特に平和であったことにより、芸能や絵画、工芸などの分野に優れた技術を発達させている。
からくり人形なども、当時の最高の技術で作られたひとつと考えて良いだろう。
江戸時代の技術が、木材の加工を目的として発達したことは論を待たない。
適材適所という言葉があるが、現在の鉄やプラスティックと違って、木は種類によっても、また同じ木でもそれぞれに「くせ」があり、適材適所は今考える以上に簡単なものではなかったであろう。
それは理屈ではなく、職人たちの個々の経験と知識によった深い洞察と、技(わざ)によって初めて可能だったのである。
桐ひとつとってみても、そこれ使われた技に同じものはないはずである。職人と木の対話があり、技術をこえた技を生み出しているからである。

桐 からくり人形(茶運び人形・桐の博物館展示品)

桐 三種類のからくり人形(茶運び・段がえり・品玉人形・桐の博物館展示品)

桐 からくり三味線人形(細谷大作氏蔵 桐の博物館展示パネル)
この人形は、右側のハンドルを廻すと人形が体を大きく動かしながら、右手で三味線をひく仕掛けになっている。
しかも、三味線の音色をだす。人形は衣装人形で頭髪にべっこうの櫛を強調している。実に精巧な作品である。
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