◆トップ  ◆家具◆下駄 ◆楽器◆彫刻 ◆茶の湯◆工芸品◆生活文化 ◆日用品 ◆収納箱 ◆道具 ◆その他




◆キリ材及び樹皮の化学的性質


農林水産省森林総合研究所 木材化工部 大原 誠資



 キリ(Paulownia tomentosa Steudel)は中国大陸の原産であり、日本では古くから各地で栽植されています。樹の成長が極めて早く、娘の誕生時に植えれば、嫁入りのときに持っていく箪笥の用材になるといわれています。種種の細工物の用材として用いられますが、最も広く利用されるのは箪笥、長持ち等の家具類です。古来より現在に至るまで、一流の家具にキリ材が用いられてきた理由は、その物理的性質に拠ります。キリ材は日本産樹木の中で最も比重が小さいため、熱や湿気を伝えにくいという性質を有します。この性質は衣類を湿気から守るという家具に要求される重要な条件に合致しています。それではキリ材の化学的性質はどのようなものなのでしょうか。ここでは、キリ材及び樹皮に含まれる化学成分の特徴について述べたいと思います。
 木材成分は、主成分及び抽出成分から構成されています。主成分はセルロース、ヘミセルロース及びリグニンから成り、量的に非常に多く、木材構成成分の90〜95%を占めています。セルロースとヘミセルロースを合わせてホロセルロースと呼ぶこともあります。抽出成分は有機溶媒または水に可溶な低分子化合物群であり、一般に木材中の存在量は少量ですが、樹種によって多種多様であり、材色、耐久性、対侯性、耐虫害性、変色等、材を利用する上での重要な性質は抽出成分によって左右される場合が多いといえます。また最近では、抗菌性、抗蟻性、抗酸化作用等の生理活性成分として注目されている樹木抽出成分も多く見出されています。
 キリ材の化学成分組成を表−1に示します。アルコール・ベンゼン抽出物量が、ほぼ材中の抽出成分量に相当します。ホロセルロース、リグニン、抽出成分の含有量は、ブナ、カバ、オーク類等とほぼ同じであり、一般の広葉樹材の化学成分組成の特徴を示しています。近年、シックハウス症候群に代表される住宅の化学物質対策が大きな問題となっていますが、キリ材には室内環境汚染物質の代表であるホルムアルデヒドを吸着する性能を有することが明らかにされています。
 次に抽出成分の中のポリフェノール及びタンニンに着目して化学分析を行ってみました。70%アセトン水溶液を用いて材及び樹皮からタンニンを抽出し、抽出物中のポリフェノール量およびタンニン量を定量しました。結果を表−2に示します。タンニンは樹木の樹皮に広く分布しているポリフェノール成分であり、抗酸化作用、抗ウィルス作用、虫歯菌に対する抗菌作用、昆虫に対する摂食阻害活性等の機能が明らかにされている化合物群です。材、樹皮共にタンニン含有量は非常に少ない値でしたが、樹皮には2,3%のポリフェノールが含まれていました。樹皮からはシリンギンというフェノール配糖体がすでに見出されており,今後の精査により,抗酸化能等の生理活性を有するポリフェノール成分が単離される可能性があります。
 キリ葉からはウルソール酸というトリテルペンが見出されており、これに糖を結合させた化合物がバクテリアに対する抗菌活性を有することが示されています。
 岩手県では,旧南部藩時代からキリの植栽が盛んに行われ,南部ギリと呼ばれる良質のキリ材を産出するので郷土の花に選ばれています。また、桐紋は家紋としても古くから用いられ、菊紋とともに皇室の御紋章にもなっています。このことからも、いかに日本がキリを珍重してきたかが伺えます。今後桐から、さらなる新たな機能性成分が見出されれば、キリ材の魅力はさらに高くなると考えられます。



表−1 キリ材の科学的成分組成
部位 アルコール・ベンゼン抽出物量(%) ホロセルロース(%) リグニン(%)
5,1 75,0 24,8



表−2 キリ材,樹皮のポリフェノール及びタンニン含有量
4,7 1,0 0,7
樹皮 11,9 2,3 0,9